テレビでは絶対言えない身近で危険な薬物の話、精神科専門医が解説。
「物質使用症」という病気をご存知でしょうか。
もしかしたら「薬物中毒」「薬物依存」なんて言葉で呼んだ方がみなさんはイメージしやすいかもしれませんね。
精神科医が用いる米国精神医学会による「精神疾患の診断・統計マニュアル:DSM-5TR」では
アルコール、カフェイン、幻覚薬、抗不安薬、精神刺激薬、タバコなどの物質に関連した重大な問題が生じているにも関わらずその物質の使用をし続け、意図していたよりも大量に長期間使用してしまい、その欲望を制御ができず、その結果日常生活にも多大な影響が出るそれらの一群を「物質使用症」と呼びます。
この疾患では身体的に大きな問題や副作用が出ていてもなお使用をやめられずどんどん使用量が増えていくことも少なくありません。
私は医療刑務所で、覚醒剤、シンナー、大麻、様々な違法薬物を使用してきた患者さんを多く見ていていますが、この記事を読んでいる皆さんにとってはそれらの薬物は少し縁遠くイメージしにくいかもしれませんね。
しかし、だからといって物質使用症は決してみなさんと縁のない疾患ではありません。
むしろ我々精神科医の間でも昨今ではそういった違法薬物よりも身近な薬物の乱用に関して問題視されることが増えてきています。
この記事では昨今問題になっている薬物やOD(オーバードーズ:過量内服)と、それに大きな影響を与えている大人の事情について、陰謀論も顔負けのぶっちゃけ具合で解説していきたいと思います。
今回の話には少しですが自傷の話が出てきます。しんどい方や不安が強くなりそうな方は、無理をして読まず、また調子の良い時に読んでみてください。
このレターでは、メンタルヘルスの話に興味がある、自分や大切な人が心の問題で悩んでいる、そんな人たちがわかりやすく正しい知識を得ていってもらえるよう、精神科専門医、公認心理師の藤野がゆるくお届けしていきます。腰が痛い中ヒーヒー言いながら必死に書いています。是非是非登録して読んでみてください。有料登録をすると無料記事に加えて毎月2本の有料記事、そしてなんと数十本の過去記事も全て読み放題になります。
そもそも自傷行為とは
さて、生物は自己保存のために外部からの侵害から自己を守り、できるだけ長く生命を維持しようとする欲求をもっています。
そのため我々の体の感覚受容器は身体に侵害的な刺激を苦痛、適合刺激を快として、快を求め不快を避ける傾向を備えています。
しかし、このような自己保存欲に反する行動が自分自身で自己の身体を傷つける自傷行為です。
自傷行為と言われ皆さんが一番想像しやすいのは手首自傷(リストカット)かと思いますが、それ以外にもOD(オーバードーズ:過量内服)や、意外かもしれませんが頭髪、眉毛などを引き抜く抜毛癖なども一種の自傷行為だとする考え方もあり、精神科には多くの患者さんが訪れます。
直接の動機は他者への攻撃・自己への攻撃(罪悪感)、および精神的な満足感を得ることだとされていますが自傷によって周囲をおどかし、周囲を操作できるという二次利得も存在します。
この辺は周囲の人から見捨てられることを恐れ、関心を引くために自傷を行うことも少なくない境界性パーソナリティ症についての過去記事の中でも触れていますのでぜひご覧ください。
精神科医は自傷を止めるのが仕事?
精神科医というと、自傷をし訪れる患者さんに熱く命の大切さを語り自傷を止めるのが仕事かと思われるかもしれませんが実は必ずしもそうではありません。
自傷は様々な想い、背景が溢れ出た結果であり、無理にその行為を止めても隠れて行ったり別の自傷に走ったり実際に自死に至ってしまうこともあるため、目の前でされないことに安心したいだけの医師の自己満足にしかならないこともあります。
その行為に至る背景に何があるのか、生き延びるための自傷ではないのか、そのSOSを汲み取って背景を潰していくことが仕事の一つになるのですが、その背景として大きな悪影響を与えているのにもかかわらず、大人の事情から多くのメディアで中々語られない薬物事情があります。