風呂キャンセル界隈と日常でのうつ病のサイン 精神科医が解説
昨年頃からSNSを中心に「風呂キャンセル界隈」という言葉を見かけることが増えました。
「お風呂入ろうと思っていたけど結局入らずに寝た」
「髪を乾かす気力が出なくて洗うのをやめた」
そんな経験、みなさんにもあるのではないでしょうか。
しかしそんな「日常の小さなできなさ」「あるある」を共有する投稿が大きな反響を呼ぶのはこれが単なるあるあるではなく、限界のサイン、SOSの場合もあるということを知って欲しいと考えている人が少なくないからではないかとも感じます。
精神科の外来をしていると自分の限界のサインに気づかず、限界を超えてもなお受診できず他人に連れられてようやく病院に辿り着く人が少なくありません。
「限界のサインを知り、もう少し早く来てくれたら…」と思うこともたくさんあります。
多くの人が限界を超えるまで頑張ってしまう世の中で早めに限界のサインに気づいてもらえるよう、l今回はうつ病の患者さんたちが日常の中で感じるサインについて精神科の専門医が生活の実例とともに解説していきます。
このレターでは、メンタルヘルスの話に興味がある、自分や大切な人が心の問題で悩んでいる、そんな人たちがわかりやすく正しい知識を得ていってもらえるよう、精神科専門医、公認心理師の藤野がゆるくお届けしていきます。腰が痛い中ヒーヒー言いながら必死に書いています。是非是非登録して読んでみてください。有料登録をすると無料記事に加えて毎月2本の有料記事、そしてなんと数十本の過去記事も全て読み放題になります。
朝の支度が終わらない:気力の減退と疲労感
・朝の準備ができなくなって遅刻が増えた
・玄関を出ようと思っても立ち上がれない、一歩が出ない
こんな形で表出される症状が気力の減退と疲労感です。
これからの季節はただでさえ寒くなり布団から出るのが億劫になるのに、疲れが取れず、気力も減退した状態では当然優雅な朝とはいきません。
起きて顔を洗い、歯を磨いて、着替える。食事を食べて時間に間に合うように出発する。
当たり前の朝に見えるこのルーチンだって改めて見ればたくさんの工程の積み重ねです。このように工程が多ければ多いほど疲労は増えますし、気力が必要です。
うつ病になるとこれまで何気なくできていた一連の動作に、途方もないエネルギーが必要になりますので洗面所の鏡の前でぼんやり立ち尽くしてしまったり、シャツを着るだけで息が上がるような疲労感に襲われ、玄関で立ち上がれなくなる、どうしても一歩が出なくなるという人は少なくありません。
時間にしてわずか数十分でも、体感的には「1日の気力をすべて使い果たしたよう」な感覚だと述べる人もいます。
朝方調子が悪く夕方以降に少し調子が戻ってくると言う人が多いのもうつ病の特徴の一つです。