発達障害のパートナーに苦悩?カサンドラ症候群について精神科専門医が丸わかり解説
カサンドラ症候群とは、自閉スペクトラム症(以下ASD)のパートナーとのコミュニケーションや関わりにおいて困難が生じ、ストレス反応として不安や抑うつ、不眠など様々な症状が出るものとされています。聞いたことがあるでしょうか?
最近ではASDに限らず他の発達障害や特性を持つ人のパートナーなどにおいても症状を訴える人が増えてきましたが、実は精神科医が診断する「病気」ではないとされています。
とはいえ、発達障害に限らず精神疾患を抱える患者さんのご家族は、症状への理解の困難さ、将来への不安や明るい見通しの立たなさなどからしんどくなってしまうことが少なくなく、こういった名前がつけられることでそこに世間の目が向けられることは必ずしも悪いことではありません。
では、なぜ病気とされないのか?何が問題なのか?
カサンドラ症候群が取り上げられる際は、症状を来した当事者の苦悩にフォーカスされることが多く、あまり悪い面には触れられません。多くの場合そういった記事を読むのは苦悩をしている方でありそういった情報を求めてはいないからです。
しかしこの記事は苦悩し、「自分はカサンドラだ」と主張している人にこそ読んでほしい記事です。カサンドラを無条件で肯定し「あなたは悪くないんだと」甘言を垂れ流す記事ではなくこの記事をフラットな気持ちでぜひ一度しっかり読んでみてください。
また前提としてASDの特徴などの知識があるとより理解しやすくなります。こちらは過去記事にまとめてありますのでぜひご覧ください↓↓↓
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そもそもカサンドラって?
カサンドラ症候群という名称はギリシャ神話のカサンドラの名前に由来しています。
カサンドラは神アポロンに愛され予言の能力を与えられましたがその愛を拒絶したため、誰にもその予言を信じてもらえなくなる呪いをかけられました。予言についていくら訴えても誰も信じてくれない、理解をしてくれないこのカサンドラの状況が、パートナーとの関係において理不尽な状況に追い込まれているのにその辛さを訴えても誰からも理解してもらえない、信じてもらえない人々の状態像と重ね合わせられ名付けられました。
どんな人がカサンドラ症候群になるの?
もともとカサンドラ症候群はASDの患者さんのパートナーがきたすものとされてきました。
ASDの患者さんの中には興味や感情の共有の苦手さ、非言語的コミュニケーションの苦手さを持っている人が多くいます。
そもそもASDで問題となるような特性の強さはグラデーションがあり、社会生活をする上では大きな困難をきたさない人から日常生活の中で日々困難を抱え苦悩している人まで様々います。ただ、社会生活では問題にならない程度の特性であってもいざパートナーとして一緒に生活をしていくことになると話は別です。共同生活では興味や感情の共有が強く求められることや、非言語的なコミュニケーションを用い理解を促進する場面というのは多くあります。
そういったことから昨今ではASDとして診断がついている方だけでなく、そのような特性を持つ人のパートナーであったり他の発達障害の方のパートナーでもカサンドラ症候群ではないかと訴える人が増えてきています。
またASD自体が3対1程度の比率で男性に多いとされていることから、カサンドラ症候群も必然的に女性に多くなると考えられます。ただASDの男女比に関しては、男性の方が生活の中で症状が顕在化しやすく気付かれやすいだけで、潜在的にはそのような特性を抱える女性やそのパートナーとしてカサンドラ症候群に苦しんでいる男性も実はもっといるのではないかという話もあります。
どんな症状が出るの?
カサンドラ症候群ではパートナーという一番身近な、本来信頼し合える相手との情緒的交流において難を生じ、分かり合えず、またそれを他者に相談しても十分に理解をしてもらえません。
そこから生じる孤独感や悲しみ、不安は強いストレスとなり当然様々なストレス反応を生じ得ます。本症候群に限らず人はストレスがかかると抑うつ気分や倦怠感、不眠、身体的不調などの様々な症状が出ますからその症状の存在自体は否定されるべきものではありません。
ではカサンドラ症候群という概念の一体何が問題なのでしょうか?