正論が正しいとは限らない〜合理的とは程遠い人間という生き物

正論はわかる、でもなぜかそうは生きられない。そんな愚かしい人間の仕組みを行動経済学の話を交えて精神科医が解説していきます。
藤野 2026.03.31
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「この人の言うことは正論だけど、なんだかしんどい」

そんなふうに感じたことはないでしょうか?

かく言う私も、つい自分が正論だと思うことを思い切り振りかざし、パートナーから

「モラハラ」

「『言ってることは正しくても言い方で相手を傷つけたらそれはもう正解ではないんですよね』とかXで呟いていたくせに」

などと言われることが少なくありません。

また、私自身も人から明らかに正しいことを言われても素直に納得できないことが多くあります。

たとえば「部屋の掃除が苦手だ」と言うと必ず「使ったものを元に戻せば散らからないのに」と言ってくる人がいます。これはたしかに正しいです。理屈としては何も間違っていません。

でも、言われた側からすると「そうなんだけど、そうじゃねぇ!」となるのは想像に難くありませんよね。

精神科で日常の診療をしていても、この「正しいけれど届かない言葉」に出会うことはよくあります。
生活習慣を整えたほうがいい。

睡眠を取ったほうがいい。

考えすぎないほうがいい。

嫌な人とは距離を取ったほうがいい。

医師や家族が伝えるそれらの言葉はどれも間違ってはいません。けれど、その正しさがそのまま人を助けるとは限らないのです。

なぜなら、人間は必ずしも合理的に生きていないからです。

今回はそんな非合理的な人間について行動経済学の話を交え、徒然なるままに語ってみます。

***

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なぜ人は間違えるのか

私たちは毎日、膨大な情報の中で判断しながら生きています。

朝起きた瞬間から「何を着るか」「あと何分で家を出るか」「傘は必要か」「今日の占いのラッキーカラーは!?」と五感から流れ込んでくる情報と格闘して様々な判断をするわけです。

でも、そんな判断を一つひとつ丁寧に論理的に処理していたら、脳はすぐに疲れ果ててしまいますし、どれだけ時間があっても足りません。

そこで人は、ある種の「手抜き」を使って生きています。

間違いの元:ヒューリスティックって?

行動経済学では、こうした直感的で素早い判断の仕方をヒューリスティックと呼びます。

ヒューリスティックは、言ってみれば脳の省エネ機能です。
厳密ではないけれど、とりあえずすばやく判断する。それにより助かる場面も多い一方で、思い込みや偏りを生み、判断を誤らせることもあります。

代表性ヒューリスティック

たとえば、一度「この人は良い人だと」と思ったら、その後多少の粗相があっても気にならなくなるし、最初の印象が悪いと良い点を見ず悪いことばかり目についてしまう、なんてことはないでしょうか?

これは行動経済学の世界では初頭効果として知られています。

人間関係では、最初の印象がその後をかなり左右してしまうのです。

また、出来事全体の評価は、途中の平均ではなく「一番強く印象に残った場面」「最後がどうだったか」で決まりやすいことがあります。これがピーク・エンドの法則です。

長い時間ずっと完璧であることよりも、要所で印象に残る振る舞いができるか、最後をどう締めるかのほうが、相手の記憶には残りやすいのです。

これらはいずれも代表的な部分を見て判断する代表性ヒューリスティックがバイアスを生んでいるのです。

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続きは、1537文字あります。
  • 正しさを追求するには
  • 目指すべき形は?
  • 認知行動療法的視点
  • まとめ

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