うつ病に特徴的な歪んだ意味づけ?歪曲された帰属について精神科専門医が解説
うつが襲ってくると世界の見え方が変わります。
楽しいと思っていたことへの興味は無くなるし、明るく輝いていた未来は見えなくなり不安や焦燥がひっきりなしに尋ねてくる。ご飯も美味しそうに見えず、ただ砂を噛むように生きるように食べるだけ。
例えば、認知行動療法の提唱者でもあるアーロン・T・ベックはうつ病の患者さんが
① 自分自身についての否定的評価
② 環境、周囲についての否定的評価
③ 将来についての否定的評価
という3つの否定的認知に支配されていて、それにより気持ちや行動も変容してしまっていると主張しました。
確かに
①自分がダメな人間である
②世界も自分に厳しく、周りの人も自分のことなんて嫌いだろう
③こんな状況がずっと続いてお先は真っ暗だ
なんてふうに考えてしまっていたら当然気持ちは晴れませんし、活動的ではなくなるでしょう。
問題を回避し、他者との関わりも避けるようになるかもしれません。ベックはこうした認知の歪みに焦点を当て、それを修正することで抑うつ患者さんの治療をすることを考えました。
うつ病だからこういった認知になるのかこういった認知だからうつ病になるのか、鶏と卵の関係のようにも見えますが、世界の見え方はメンタルに大きな影響をもたらします。
今回はこういった認知にも関わる「帰属」という概念にスポットを当てて話をしていきます。
難しそうな言葉に聞こえるかもしれませんがそんなに難しい話はしないので気軽に読んでみてください〜。
このレターでは、メンタルヘルスの話に興味がある、自分や大切な人が心の問題で悩んでいる、そんな人たちがわかりやすく正しい知識を得ていってもらえるよう、精神科専門医、公認心理師の藤野がゆるくお届けしていきます。腰が痛い中ヒーヒー言いながら必死に書いています。是非是非登録して読んでみてください。有料登録をすると無料記事に加えて毎月2本の有料記事、そしてなんと数十本の過去記事も全て読み放題になります。
そもそも帰属って?
先週まで毎日仲良くラインをしていた同僚から突然返事が返ってこなくなり、数日で職場を辞めてしまった。
そんな不測の事態が生じた時あなたはどうしますか?
多くの人は「私が何か悪いことを言ったかな?」「誰かに嫌がらせをされていたのかな?」「何か家庭の事情かな?」なんていうふうにさまざまな原因を探るのではないでしょうか。
こういった周囲で起こったことや他人の行動の原因を推し量ることを帰属といいます。
帰属は常に行われるわけではなく普段とは異なる出来事、不快、苦痛など何か気に掛かる場合に生じやすいとされ、心理学者Heider,Fは人はこの混沌とした外界を一貫した意味のある世界として統制するために帰属を行うと考えました。
この帰属に関しては根本的帰属エラー(対応バイアス)などの話も社会心理学の分野として面白い話が多いのですが、今回はうつ病の話に座を譲り、話を進めましょう。
うつ病の帰属スタイル
ウィスコンシン大学の心理学教授Abramsonらはうつの人たちがさまざまな日常の出来事に関して以下の3つ領域で特徴的な帰属スタイルをとると提唱しました。
1.内的vs外的
2.包括的vs特異的
3.固定的vs可変的
順に見ていきましょう
1.内的VS外的
うつ病では日常のさまざまな出来事に対し、内的に偏った帰属を示すとされています。
内的とは内に向く、つまり何か出来事が起きた時に自分のせいだ、とネガティに偏った見方をしてしまう傾向があるということです。
それに対しうつ病でない人は良くない出来事が生じてもそれは不運や誰かのせいだ、と外的なもののせいだと考える傾向がありそれを外的といいます。
もちろん外的な帰属も行き過ぎるとなんでも誰かのせいにしてしまい責任が取れない、成長ができないなど悪い面が出てきますが、少なくともうつ病の方のように自分で自分を追い込んでしまい苦しくなるということは生じにくいわけです。