「世界の頂上にいる気分?」双極症の躁状態について精神科専門医が解説
双極症というと聞き馴染みがないかもしれませんが、かつては双極性障害や躁うつ病とも呼ばれ、最近では著名人が公表することも増えたためなんとなくは知っている方もいるでしょう。躁状態では次々と様々なアイディアが浮かんでくるためアーティストや起業家の中にはそれが仕事に影響しているケースもあったりします。
基本的には躁エピソードと抑うつエピソードを繰り返す疾患ですが、うつ状態はイメージしやすくても、躁状態はみたことがなければなかなか想像がしづらいかもしれません。
うつの反対ということは楽しいの?なんて思う人もいるでしょうし、実際、側から見ていると楽しそうに見えることもあるかもしれません。
ただ、躁状態は実は大きなトラブルを引き起こすことも多く、患者さんも後々とても苦悩するものです。その時楽しそうだからOK、ではないからこそ我々精神科医は普段穏やかでしっかりした距離感の患者さんがある日「先生は本当に素晴らしい!感謝しているのでぜひ受け取ってください!」と言って大金の入った分厚い封筒なんかを持ちだしたりした日には危機感を覚えますし、うつ病として治療をしていた患者さんがある日「絶好調になりました!」とエネルギーに満ち溢れて現れた時は躁転を疑い焦るわけです。
躁状態がどんなものかわからないからこそ、自身が双極症なのではないかと心配して受診される方も少なくありませんし、双極症の症状の患者さんに対し酷い対応をする方もいます。
今日はぜひ多くの方に、双極症の躁状態で現れる症状や問題となる点を具体例を交え知っていただきたいなと思います。
このレターでは、メンタルヘルスの話に興味がある、自分や大切な人が心の問題で悩んでいる、そんな人たちがわかりやすく正しい知識を得ていってもらえるよう、精神科専門医、公認心理師の藤野がゆるくお届けしていきます。寒くなってきて腰が痛い中ヒーヒー言いながら必死に書いています。是非是非登録して読んでみてください。
躁状態って一体?
躁の状態では気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的になったり怒りやすくなったりします。また、それに加えて、異常かつ持続的に亢進した活動や活力が認められます。
簡単に言えばエネルギーが持続的に満ち溢れ、さまざまな形で表出されるイメージです。
ここで大切なのはこのような普段と違った状態がある日1日だけ、などではなく一定期間持続するという点です。誰だって何か興奮する出来事があれば1日くらいテンションが上がりすぎることはありますもんね。
そうは言っても、実際にどんな行動に現れるのか見たことがなければなかなか想像がつきにくいですし区別もつかないと思いますので、ここからはもう少し具体的に、その特徴を見ていきましょう。
自尊心の肥大、または誇大
世の中には普段から自尊心が高い人も少なからずいますし、それが必ずしも悪いとは限りません。しかし、躁状態として生じてくる自尊心の肥大はそれらとは異なる具合のものであり、誇大性は時に妄想的になることすらあります。これまで特別な経験や才能があったわけでもないのに、自身は特別な存在であると確信し、とてつもない発見や発明をして大金持ちになれることを疑わず到底実現不能そうな実験を始める者、溢れ出るエネルギーを文章にぶつけ自称「小説」を書き始める者、天皇など「偉い人が自身を迎えに来る!」と言ってその他の人間に上から目線で暴言を吐き始める者など様々です。
その多くは実現しませんが、ある程度、躁的な時の方が創作活動が捗るという人も確かに存在はして、芸術家や起業家などの中には実は双極症と戦っているという方もいます。これは統合失調症などでもそうなのですが、治療をしてしまうと創造性が失われる、ということで治療を拒否される方もいるのです。