記憶喪失ってほんとにあるの?精神科専門医が徹底解説
記憶喪失、多重人格など解離症はその特性から様々なメディアでドラマチックに描写されることが多くあります。私も学生の頃、24の人格を抱えた男の話「24人のビリー・ミリガン」を読み、なんとドラマチックでミステリアスな疾患なのだろうと思っていました。
しかし、実際に精神科医になって診る解離性健忘、解離性人格障害などは世間の思い描くイメージとは少し様相を異にするものであり、時にドラマチックではない、どうしようもない現実を突きつけてくるものでもあると感じるようになりました。
今回は解離症の中でも多くの人の関心を惹きつける解離性健忘、いわゆる記憶喪失とされるものについてそんな話をしていきます。
解離ってそもそも何?
ここまで「解離性〇〇」という言葉を当たり前のように使ってきましたがあまり聴き慣れないよ、という方もいるかもしれませんのでここで解説しておきましょう。解離ってそもそも何なのでしょうか?
解離とは,ある一連の心理的もしくは行動的過程を,その個人のそれ以外の精神活動から隔離してしまうような無意識的防御機制
のことを指します。そのような防衛機制の結果、解離症群では記憶、同一性、知覚、意識、行動などの精神機能のうち、1つまたはそれ以上に混乱がみられます。
もう最初から難しくて嫌になりそうですよね、わかります。
ここからは格好をつけずに簡単な言葉で解説していくので安心してください。
とても強いストレスや心的外傷的な事象にさらされた時、それを受け止め切れないことや処理しきれなくなることがありますよね。そんな時どうしますか?むしろどうにかできますか?
どうにもできない時にその出来事を切り離し隔離することで自身の心を守る。
経験したことや気持ちを「記憶の奥底に封印することでしんどくなることを防ぐ」「別人格に預けることで心を守る」そういった防衛が解離です。
これは嘘をついて病気を装う詐病などとは異なり、わざとやっているわけではないので、本人にとっては本当に思い出せなかったり、別人格のせいで困り事が生じることが当然あり得るわけです。
記憶喪失って?
いわゆる記憶の障害は脳炎や外傷などによる脳のダメージからくるものと、先述のような精神的葛藤、防衛によって引き起こされる解離性障害によるものの2種類に分けることができます。
交通事故などの外傷で記憶を保持する場所が壊れてしまうと記憶が保管できなくなったり思い出せなくなったりしてしまうのは何となく想像がしやすいかと思いますし、記憶が保管できていてもそれを引っ張り出してくる経路が破壊されていたら引っ張り出せなくなってしまうことも想像に難くないでしょう。
一方、それとは質を異とするのが解離性健忘です。
解離性健忘は、物理的に脳が破壊されてそのダメージから思いだせなくなっているわけではなく、記憶は脳に残っていてその経路も破壊されていません。それゆえ潜在的には可逆的、つまり再び思い出すことが可能なのです。
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